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小腸移植の生検診断

2022.08.13 最終更新
小腸移植後のもっとも重要な合併症は急性拒絶反応 (ACR) である.その早期診断のためには拡大内視鏡による観察と小腸グラフト粘膜生検によるモニタリングが用いられる.第8回国際小腸移植シンポジウムにおいて, 小腸グラフト ACR の診断基準が提唱された(文献1).

ACR の重症度は,急性拒絶反応なし (Grade 0), 不確実 (Grade ind), 軽度 (Grade 1), 中等度 (Grade 2), 高度 (Grade 3)に分類され,通常は Grade 1 以上が治療の対象となる.ACRでは陰窩の上皮細胞中にアポトーシスが増加するのが特徴で,10個の陰窩中に6個以上のアポトーシスがみられる.
ACR Grade 1 では,軽度に絨毛の先端が丸くなる (blunting),絨毛の丈が低くなるといった変化がみられる.粘膜固有層の炎症細胞浸潤は活性化リンパ球が主体で,好酸球,少数の好中球が認められ る.また一般的な急性炎症と同様に浮腫やうっ血はしばしば認められる.
ACR Grade 2 では 絨毛の変化がより明瞭に観察され,アポトーシスは1個の陰窩中に連続して認められるようになる (confluent apoptosis).
ACR Grade 3 では絨毛の消失,陰窩の破壊・消失が進行し,生検では上皮が観察されない場合もあるため,内視鏡所見を含めた総合的な判断が必要となる.

抗体関連拒絶反応 (AMR) に統一された診断基準はないが,他の臓器と同様に,毛細血管炎 (capillaritis) と血管内皮への C4d 沈着が広範囲に認められ(例:少なくとも全体の10%以上),治療に抵抗性を示す(文献2).

小腸グラフトの粘膜生検では,拒絶反応の重症度だけでなく, ウイルス感染の有無も同時に評価することが重要である.サイトメガロウイルス (CMV) 感染はHE染色のみでは見落とす可能性が高いので,免疫染色を併用して検索する必要がある.封入体は通常上皮でなく血管内皮などの間質細胞に認めら れ,CMV封入体が1個でもあれば感染が示唆される.

Epstein-Barr virus 感染はしばしば臓器移植後リンパ増殖性疾患 (PTLD) と関連するため,HE染色で異型リンパ球が明らかでない場合であっても,in situ hybridization (EBER ISH) を用いてグラフト中の感染リンパ球の有無を評価することが望まれる.

文献
1. Ruiz P, Bagni A, Brown R, et al. Histological criteria for the identification of acute cellular rejection in human small bowel allografts: results of the pathology workshop at the VIII International Small Bowel Transplant Symposium. Transplant Proc. 36(2): 335-337, 2004
2. Rabant M, Racapé M, Petit LM, et al. Antibody-mediated rejection in pediatric small bowel transplantation: Capillaritis is a major determinant of C4d positivity in intestinal transplant biopsies. Am J Transplant. 18(9): 2250-2260, 2018

小腸急性拒絶反応の重症度

Grading ACR Description Major findings
Grade 0
No evidence of acute rejection
正常粘膜であるか,あるいは明らかにACRと異なる病的変化
Grade ind
Indeterminate for acute rejection 5個/10陰窩までのアポトーシス,炎症は軽度
Grade 1
Acute cellular rejection, mild
6個/10陰窩ないしそれより多いアポトーシス
6 or more apoptotic bodies per 10 crypt cross sections,
混合炎症細胞浸潤,ムチンの減少,
細胞丈の低下,絨毛丈の低下,核/細胞質比の増加,陰窩炎,浮腫,うっ血
Grade 2
Acute cellular rejection, moderate 上記に加えて,連続したアポトーシス (confluent apoptosis),
絨毛の先の鈍化 (blunting) や丈の低下が明らか
Grade 3
Acute cellular rejection, severe
絨毛・陰窩の破壊,びらん,潰瘍 (exfoliative rejection)
文献1より

(追)消化管粘膜におけるアポトーシスの出現頻度は部位によってかなり異なっている.そのためか,大腸や胃のGVHD基準と小腸移植ではアポトーシスの cutoff が,かなり異なっている(文献3).

正常胃でアポトーシスの出現はかなり稀(少しでもアポトーシスがあればGVHDの診断になる可能性が高い)である一方,回腸では正常であってもアポトーシスをみつけることが多い(文献4).大腸腺腫ではアポトーシスがよく観察できる.

3. Myerson D, Steinbach G, Gooley TA, et al. Graft-versus-Host Disease of the Gut: A Histologic Activity Grading System and Validation. Biol Blood Marrow Transplant. 23(9):1573-1579, 2017.
4. Sung D, Iuga AC, Kato T, et al. Crypt apoptotic body counts in normal ileal biopsies overlap with graft-versus-host disease and acute cellular rejection of small bowel allografts. Hum Pathol. 56:89-92, 2016