京大病理部 病理診断科 病理報告の標準化
Standardization of  the Pathology Report in KUHP

2011.05.12 開始 2021.07.14 最終更新

CDC の Simply put (簡潔に表現せよ – A Guide for Creating Easy-to-Understanding Materials) に示されている原則は、病理報告書の作成にも参考になる

Make your Message Clear
1. もっとも重要な情報を冒頭に持ってくる
            Give the most important information first

2. 伝えるメッセージの数を絞る
            Limit the number of messages

3. 何をすべきかを伝える
            Tell audiences what they need to do.

4. この診断報告書を読むことで、何を得られるかを具体的に伝える
            Tell your audience what they will gain from understanding and using the material .

5. 言葉を注意深く選ぶ
            Choose your words carefully.

病理報告書バージョン【案】:

1. 英語と日本語の記載内容を乖離させない
日本語は特に必要がなければ記載しない
               
シノプティックに書く方がデータとして価値が高い

2. 枝番号は診断文に記載しない
「臓器」「部位」「採取法」で示すのが原則

3. わからないことはわからない,と記載する
わからない理由も明記する

4. カセットサマリーは短くとも具体的に記載する
              
5. 病理だけでしか通用しない独自の言い回しを避ける
                できるだけ短文にする




1. 病理診断報告の構造
 京都大学医学部附属病院病理診断科(=京大病院病理;以下の文章で,京大病院病理では〜」と記載がある文章の内容はローカル ルールである)の病理診 断報告は,英語部分日本語部分に分かれている。
 英語部分は1行目に臓器 organ,部位 site,採取法 procedurure を記載する。コロンの後に改行する。2行目はハイフン(本来はダッシュ)スペースの後に組織診断名 histologic diagnosis を記載する。ピリオドの後に改行する。3行目以降は,シノプティックレポート synoptic report (コロンで区切られた項目)] を記載する。改行前にピリオドを用いる必要はない。
 日本語部分は,英語部分から1行開けて,肉眼所見 macroscopic findings・切り出し cutting・組織所見 microscopic findings の順に記載する。

記載例
Lymph node, left supraclavicular, needle biopsy:
- Metastatic adenocarcinoma of colorectal origin.
    Immunohistochemistry:
        Positive: CK20 (30% of tumor cells), CDX2 (diffuse)
        Negative: CK7 (0%), TTF-1

 【肉眼所見】
       針生検検体2個 (10 mm, 8 mm長さ)。
     すべて標本とする (それぞれ #1, #2)。

    【顕微鏡的所見】
    いずれにも壊死を伴う管状腺癌を認めます。

2. 英語部分の記載
[1行目]
  (1) 部位は臓器の特定の場所を示すために記載する。悪性腫瘍の診断や,骨 (bone), リンパ節 (lymph node), 皮膚 (skin) など全身に及ぶ臓器では可能であれば臓器だけでなく部位を記載すべきである。部位が不明な場合は部位不明 (site unspecified) を用いる。
  (2) 部位・側性が採取法に含まれる場合は部位・側性の記載を省略できる (e.g. left hemithyroidectomy)。
  (3) 他施設から検体を受け取った場合,採取法の後に, "glass slide (あるいは paraffin block) consultation"と記載する。
  (4) 治療が行われた後の検体採取の場合,採取法の後に,"status post 〜" などと記載することができる。
  (5) 迅速標本(凍結標本)であれば,採取法の代わりに "frozen section" ないし "intraoperative consultation" と記載する。

[2行目]
  (1) 診断名には略称を用いない。略称を用いる場合は定義してから使用する。
  (2) ブロック番号(標本番号)の使用は避けるべきである(∵日本語部分で定義されるため)。
  (3) 同一臓器であっても個別の検査と診断のために提出された組織は、部位別に診断を記載する。
  (4) 複数の臓器から採取された検体について一括で診断を述べることは推奨されない。
  (5) 腫瘍の診断は WHO分類に従って記載する。
  (6) 京大病院病理では,膀胱腫瘍の経尿道的切除 (TUR-BT)や良性病変の内視鏡的粘膜切除 (EMR) では,習慣的に組織診断に続けて異型度 (grading), 断端評価 (margin) を記載することがある(本来は3行目以降にシノプティックレポートとすべきである)。

[3行目]
  (1) シノプティックレポートの記載内容はCAP protocol に準じて記載する。もし各種の癌取り扱い規約(シノプティックではない)に準じて記載する場合は,重複する CAP protocol の内容は省略する。
  (2) 京大病院病理では,炎症性疾患の定量的な評 価は可能であればシノプティックレポートに含める。
  (3) 京大病院病理では,免疫染色加算を算定している場合は,当該の免疫染 色結果について必ず記載する。京大病院病理では,腫瘍における免疫組 織化学や FISH 検査の結果は,シノプティックレポートに準じた形式で各々の抗体の種類と染色結果を記載する。腫瘍性疾患でない場合は,日本語で顕微鏡所見の記述としても よい。

3. 日本語部分の記載
[肉眼所見 macroscopic findings/gross description と切り出し cutting]
  (1) 提出された検体(specimen submitted)は、明瞭に区別し、個別の検体として記載する。個数は重要な肉眼所見である。
  (2) 検体の状態 integrity(一塊か、断片か,液状/半個体か)は必要に応じて記載する。
  (3) 検体の大きさspecimen size は cm で最大径ないし3次元 ( _ x _ x _ cm)を記載する。京大病院病理では0.1 cm 未満の場合「微小」と記載してもよい。
  (4) 腫瘍の存在部位 site, 局在性 focality (single or multiple), 最大径ないしは3次元の大きさ tumor size ( _ x _ x _ cm)を記載する。
  (5) 形 shape (ポリープ状、潰瘍形成性、など), 色 - color・硬さ - consistency,出血・壊死の有無は必要に応じて記載する。
  (6) 切り出し (cutting) では検体の「部分 representative」あるいは「全体 in toto/totally submitted」のどちらを顕微鏡検査に提出したかを記述する。
  (7) 各々のブロックに番号をつける(ブロック番号あるいは標本番号, #1, #2, #3, ...とする)。京大病院病理ではブロック番号にアルファベットを用 いてはいけない。それぞれのブロックがどの部位から採取されたかを示す要約は肉眼所見の最 後に記載する。
  (8) 必要があれば肉眼写真などを添付し,複雑な切り出しにおけるブロックの同定を補足する。しかしこれらの絵で表した記録 pictorial records を,文章による要約の代わりにしてはいけない。
  (9) マージンにインクをつけたことと,その色は肉眼所見に記載する。
  (10) 脱灰操作,特殊染色や遺伝子検査を行う組織がどれかが報告に含まれるように記載する。

[提出検体に関する他の情報]
  (1) 京大病院病理では,他施設からスライドやブロックを受け取ったことを 記載する場合,返却先を明らかにするために他施設名を記載する。スライドやブロックの数、紹介元病院の患 者番号あるい は病理番号 (identification numbers or letters)、および紹介元病院の情報を病理報告書に含める。京大病院病理で は患者氏名は記載しない(「カンジャシメイ」などと書く必要もない)。
  (2) フローサイトメトリーなど他の検査の結果は必要があれば報告書に記載する。その結果が病理報告の一部でない旨も記載する。

[顕微鏡的所見 microscopic finding と顕微鏡写真の添付]
  (1) 組織所見は必ずしも必要でない。必要があると判断すれば記載する(診断名から推測しえない組織所見など)。組織診断に定型的な組織所見の記載は同語反復 tautology でありデータとしての価値に乏しい。
  (2) 京大病院病理では,階層的検閲,診断レビューを円滑に行うために,シ ノプティックレポートの内容(脈管侵襲・断端陽性など)の根拠となるブロックがどこにあるかを記載するこ とが推奨される。京大病院病理では,シノプティックレポートで書いた 内容をそのまま繰り返してはいけない。京大病院病理では,英語部分で 記載すべき内容を日本語部分だけで記載してはいけない。
  (3) 京大病院病理では,顕微鏡所見部分に診断名 を入れる必要がある場合は日本語が推奨される。京大病院病理では,組 織中に存在しない病名を英語で記載してはいけない。
  (4) 顕微鏡写真の添付はレポートの理解を助け、報告後の問い合わせや報告書の見直し時の参照に有用である。可能なら倍率, legend を追加する。

6. 追加報告・訂正報告の方法
  (1) 日本語部分を残して英語部分を変更する。
  (2) 変更した内容の説明を日本語部分の最初で記載する。
  (3) 前回報告の日付を入れるなどして,前回報告までの所見と区別できるようにする。
  (4) 診断に変更がなく,日本語部分のみを変更する場合でも,変更の内容が明らかとなるように記載する。
  (5) 京大病院病理では,特に重要な訂正報告であるにもかかわらず担当者への電話連絡が困難な場合,電子カルテにあるメッセージ (MSG) 機能を使用する。電話で連絡したことは病理レポートに記録する。
  (6) 術中迅速と永久標本の診断が食い違う場合は,異なっていることを記載しその理由についてコメントする。

7. その他
 (1) 患者情報として,臨床診断(clinical/pre-operative diagnosis)と、検体(specimen)が何かは最低限記載されているべきである。簡単な臨床経過(clinical history)が記載されていることが望ましい。これらの臨床情報が不十分な場合は病理医自らが補足する必要がある。
  (2) 診断に密接に関連 (pertinent) していれば文献を引用する。
  (3) 当該症例の診療に貢献すると考えるならば,追加の検査や手技について提案することは容認できる。ただし,あくまで提案であることが明記されるべきである。
    ×...再検してください
    〇...必要であれば再検をご検討ください
  (4) 診断困難例に遭遇し,内部コンサルテーションを行った場合,できるだけサインアウトに加わってもらう(診断に関して責任を分担する)。コンサルトしたこと を伏せて報告する場合は責任はすべて報告者にある。外部コンサルテーションを行った場合,コンサルタントをいつ誰に行ったかを明記し,コンサルタントの意 見についての追加報告を行う。外部コンサルタントの意見に同意するか否かに関わらず,診断の最終責任はすべ て報告者にある。
  (5) 京大病院病理では,G番号で区分される遺伝 子検査,外注の免疫組織化学については「陽性」と記載することで遺伝子変異が存在すること,あるいは染色が陽性であることを意味する。それ以外の意味で 「陽性」の語句を用いてはならない。
  (6) 京大病院病理では,「欠番」の用語は,当該 の病理診断依頼がすべて取り消されたことを意味するため,それ以外の意味で「欠番」の語句を用いてはならない。


以下,参考:

Mod Pathol. 1992 Mar;5(2):197-9.

Standardization of the Surgical Pathology Report

Rosai J, Bonfiglio TA, Corson JM, Fechner RE, Harris NL, LiVolsi VA, Silverberg SG.

The Association of Directors of Anatomic and Surgical Pathology ("the Association") has concluded that a more standardized surgical pathology report may contribute positively to patient care. As the first step toward achieving this goal, the Association has prepared the following recommendations and urges pathologists to consider seriously adopting these for their own surgical pathology reports. The recommendations concern not only the format of the report but also provide suggestions for information to be included in the report. Widespread adoption of these recommendations should make information transfer from surgical pathology laboratories to clinicians more efficient and complete and also improve communication among surgical pathology laboratories when histologic sections are sent from one institution to another.

DEMOGRAPHIC AND SPECIFIC INFORMATION
The Association recommends the following:
1. Placing all demographic information in the top portion of the report.
2. Including in the demographic information the patient's name, location, gender, age and/or date of birth, and race, as well as the requesting physician's name, the attending physician's name (if different from the requesting physician), and the medical record or unit number.
3. Printing the name, address, telephone number, and FAX number of the laboratory at the top of the surgical pathology report.
4. Placing the surgical pathology number in the top portion of the report on every page, set off from other information so that it can be easily and quickly identified.
5. Including a summary of the pertinent clinical history as part of every surgical pathology report.
6. Including a separate "specimens submitted" section in every report in which each separately identified tissue submitted for individual examination and diagnosis is clearly identified and listed as a separate specimen.

GROSS DESCRIPTION
The Association recommends the following:
1. Including an adequate gross description as part of every surgical pathology report. Prerecorded gross descriptions are satisfactory, provided they include specific information about the particular specimen. Each separately identified tissue specimen submitted for individual examination and diagnosis should have its own gross description. Whether "part" or "all" of the specimen has been submitted for microscopic examination should always be recorded in the gross description.
2. Identifying each block with a unique number or letter. Giving multiple blocks the same identification number of letter is discouraged. A summary listing the sites from which each identified block is taken should be placed at the end of the gross description.
3. Augmenting the identification of block sections of complex specimens, when appropriate, by drawings, photographs, xerographs, etc.; but these pictorial records should not replace the printed block identification summary recommended in no. 2 above. Ideally, the pictorial record should accompany the chart copy, the physician copy, and the surgical pathology laboratory copy of the report.
4. Recording in the gross description the fact that margins are inked.
5. Recording the distribution of tissue for special studies in the gross description.
6. Including in the pathology report, when slides or blocks or tissues are received from another laboratory, the numbers of the slides and blocks, the referring hospital's identification numbers or letters, and the referring hospital's demographic data.

MICROSCOPIC DESCRIPTION AND COMMENT SECTION
For purposes of these recommendations, a microscopic description is defined as a description of the cytologic features and the architectural arrangement of the cells in a histologic section. A comment refers to all other pertinent information.
The Association recommends the following:
1. Recording microscopic features whenever the responsible pathologist deems it appropriate, but a microscopic description need not be a part of every report.
2. Placing comments into the report whenever the responsible pathologist considers they are indicated, but a comment need not be written for every case.
3. Making it option to place microscopic descriptions and comments in separate sections or to combine them.
4. Designating that "special" stains have been performed, listing each stain and the results of the staining in the microscopic or comment section.
5. Listing, when immunohistochemical stains have been performed, each antibody tested and the results of the staining in the microscope or comment section of the surgical pathology report, in a separate immunohistochemical report, or both.
6. Grading all tumors for which grading has been shown to be a significant prognostic variable. When a grade is given, the grading criteria or scheme should be recorded in a comment or in the diagnosis line unless the grading scheme is standard and well understood by all clinicians.
7. Using a "checklist" approach for recording information needed for patient treatment and prognosis. A statement related whether each item on the checklist is positive or negative should be made. The checklist is used to ensure that all pertinent information has been included in the pathology report. Such information includes but is not limited to grade, depth of invasion, presence or absence of vascular invasion, size of the tumor, type of tumor, etc., and it is often different for different types of resection specimens. The condition of resection margins should be recorded here if clinically indicated. These checklists may be in manuals, on separate sheets, in computers, etc. It is also recommended that there be routine periodic checks of pathology reports to ensure that this information is present and summarized in an easy-to-find area of the comment or in the diagnosis section.
8. All information needed to formulate the pathologic stage of a cancer be present in the report, but this information need not be recorded by a number of letter per se. If a stage number or letter is recorded, then the system used should be specified.

INTRAOPERATIVE CONSULTATION
The Association recommends that the intraoperative consultation report be incorporated verbatim into the final report. The persons responsible for the intraoperative report should be identified. If there is a discrepancy between the intraoperative diagnosis and the final diagnosis, this discrepancy should be recorded and discussed in a comment.

FINAL DIAGNOSIS
The Association recommends the following:
1. Specifying the organ, site, and procedure as well as the diagnosis in the diagnosis section. These can be set off from the diagnosis by a dash or a colon.
2. Standardizing the format of diagnoses within each pathology department.
3. Setting off anatomic diagnoses so that they can be quickly and easily identified.
4. Listing each separately identified tissue submitted for individual examination and diagnosis in the diagnosis section along with the anatomic diagnosis for that specimen.

GENERAL CONSIDERATIONS
The Association recommends the following:
1. Clearly separating and identifying the specimen(s) submitted, clinical information, clinical diagnosis, intraoperative diagnosis, gross description, microscopic description, comments (when they are not combined with the microscopic description), and anatomic diagnoses in such a way as to be found readily and easily in the report. Printing should be of sufficient quality to be read easily.
2. Doing a search for prior histologic and cytologic accession numbers for each case and recording pertinent prior specimen numbers in the current surgical pathology report.
3. Incorporating the results of special studies such as electron microscopy, immunohistochemistry, flow cytometry, receptor status, data, etc., into the surgical pathology report whenever possible. If this information is not a part of the surgical pathology report, the fact that tissue has been sent for the study should be recorded in the surgical pathology report.
4. Recording in the pathology report any information regarding procedures other than routine handling of tissue, such as gross photography, decalcification, specimen x-ray, freezing of samples, and placing specimens in a tissue bank.
5. Documenting intradepartmental consultations in the surgical pathology report, either by identifying the consultant in the comment section or at the end of the surgical pathology report or by having the consultant cosign the report.
6. Noting when external consultation is initiated by the pathologist in the pathology report. When the consultant's report is received, a supplemental report containing the consultant's interpretation and opinions should be issued.
7. Conveying to clinicians any significant unexpected findings and documenting immediately in the surgical pathology report the fact that a call was made.
8. Citing references in the surgical pathology report when pertinent.
9. It is acceptable for the responsible pathologist to make suggestions for additional studies or procedures in the surgical pathology report if the pathologist thinks they will contribute to the case. Such information can be incorporated in the surgical pathology report as long as it is emphasized that they are only suggestions.
10. Note clearly and prominently when an amended report is issued. Changes that have been made in the report should be specified if the new report is a complete one; if only changes are recorded in the amended report, that fact should be specified.
11. Including the date the specimen was received and the date of the final report in all surgical pathology reports.

PREPARED BY: Richard L. Kempson (Committee Chair), Juan Rosai
PUBLISHED IN: Am J Surg Pathol 16:84-86, 1992; Mod Pathol 5:197-9, 1992