口腔病理に対する意見

 平成29年(2017年)3月16日(木曜日)

口腔病理専門医資格は,口腔領域以外の診療を歯科医師が行うことを目的としていない

現行の口腔病理専門医制度が,法令等に則った形で適切に運用されることを希望する

 「病理診断は医行為である」との厚生省の見解が平成元年に出ています(医事第90号平成元年12月28日).その後,解釈の変更はありません.従って,医 師の資格がない者が医行為である病理診断を行うべきではありません.これは当該の個人に病理診断の能力があるかどうか以前の問題です.医師以外の者が医療 行為を行い,医療事故をひきおこした場合は,民事訴訟だけでなく,医師法違反に問われる可能性があります.

 我が国における診療は,医学部を卒業して医師免許を取得したものが行う医行為と,歯学部を卒業して歯科医師免許を取得したものが行う歯科医行為に分けら れています.もっとも最近の省庁の見解は 平成8年5月16日(木)第2回「歯科口腔外科に関する検討会」で,医科と歯科は部位で区別されると結論づけています.これは病理診断についても同じと考えられます.実際に,保険診療点数表では,「病理診断料」と「口腔病理診断料」 は,部位で区別されています.


========================

医科 第13部 病理診断
N006 病理診断料
... 医師が病理診断を行い ...


歯科 第14部 病理診断
口腔病理診断料(歯科診療に係るものに限る。)
...
通知

(1)口腔病理診断料を算定する保険医療機関は、病理診断を専ら担当する歯科医師又は医師が勤務する病院である。
...

========================

 医師である病理医が誤診した場合「業務遂行中のミス」として,民事責任は問われることがあっても,刑事責任の対象とはなりません。しかし,歯科病理医が「口腔外」の病理診断を行った場合は,誤診でなくても「医師法違反」に問われる可能性があります。

 平成20年(2008年)4月以降,「病理診断科」が医療機関が標榜する診療科として広告可能となっています(医政発第 0331042 号平成20年3月31日). 歯科が「口腔病理診断科」を標榜することは問題ありませんが,歯科診療を行っていない病院において口腔病理医が「病理医」として勤務することは医師法の観 点から問題があると考えます.日本病理学会は,口腔病理専門医の認定や更新の際に,勤務実態を把握できますので,法的に問題のある専門医を輩出しないよう に監督できる立場にあると考えられます.

 口腔病理専門医試験(平成5年〜)の申請要綱や口腔病理専門医の資格更新に関わる文言については,本来医師が行うべきである口腔領域以外の病理診断を, 歯科医に行わせてよいと解釈できる文章が含まれないようにすべきと考えます.また口腔病理研修に際して,医師法違反となる運用を避けられるような配慮が必 要と考えます.

 京都大学医学部附属病院病理診断科 診療科長
  羽賀 博典