ケラチン Keratin

        最終更新 2018年08月27日

1. ケラチンの分類

ケラチン (K, = サイトケラチン CKと同じ)は,上皮や中皮の細胞骨格を構成するタンパク.

ヒトケラチンは54種類ある.最初の分類はMoll et alによる(1982).
その後,次々に付け足されたため複雑な番号付けになっている.

病理診断で使用するのはK1〜K20.K11(魚類), K87(マウス)などはヒトにない.

通常,ケラチンは,
Type I (等電点が酸性)
Type II (等電点が塩基性〜中性)と
が2つずつで4量体で存在する.

ケラチン遺伝子 (KRT)は,
Type I 遺伝子が17番染色体,
Type II 遺伝子が12番染色体 (KRT18だけ Type I だが12q13.13)
にある。

分布の違いによって,上皮性 epithelialヘア hair に分けられる (Schweizer J et al. J Cell Biol 2006). 
KRT Type
Type II
Type I (mostly 17q)
AKA
basic or neural
acidic
Chromosome
12q13.13
17q21.2
Epithelial
K1-8, K71-80
K9-20, K23-28
Hair
K81-86
K31, 32, 33ab, 34-40
それぞれの Type 内における相対的な分子量の違いで,高分子ケラチン低分子ケラチンに分ける.
K1, K5, K10, K14など重層扁平上皮に発現するケラチンは高分子ケラチン.
K7, K8, K19, K20など非扁平上皮に発現するケラチンは低分子ケラチン.

高分子ケラチン:
Type II: K1-6 (56-67 kD)
Type I: K9-16 (48-63 kD)

低分子ケラチン:
Type 7-8 (52-54 kD)
Type 17-20 (40-49 kD)

2. 部位別のケラチンの発現パターン


Type II
Type I
組織
高分子
K1/2
K9
glabrous skin (手掌・足底)
高分子 K1/2
K10
suprabasal layer of skin (表皮角化部)
高分子 K3
K12
角膜
高分子 K4
K13
非角化重層扁平上皮(頬粘膜・食道),尿路上皮
高分子 K5
K14
表皮や線毛上皮の基底細胞部・中皮・筋上皮
高分子 K6abc
K16
K5-14にほぼ同じ
低分子
K7
K17
単層上皮(肝・大腸・前立腺除く)
低分子
K8
K18
単層上皮
低分子
K19
なし
肝臓以外の単層上皮のほとんど
低分子
K20
?
消化管粘膜,尿路被蓋上皮,メルケル細胞
参考: Goldsmith LA ed: Phisiology, Biochemistry, and Molecular Biology of the Skin (1991)

3.  京大病理部にある抗ケラチン抗体の使いみち:

K5, 5/6, 7, 10, 13, 17, 18, 19, 20; AE1/AE3, CAM5.2, 34βE12

K5 表皮/筋上皮マーカーとして京大はK5 (Clone X26) を採用している
   (K5はクローンにより染色性に差があるらしい。世間一般はK5/6を使用.  K10は最近ほとんど使用しない)

K7 多くの腺上皮/腺癌で陽性となる.K20との組み合わせは後述
   傷害を受けた肝細胞や肝細胞癌の一部も陽性となることがある
            低分化扁平上皮癌の一部はK7を発現するので腺系特異的マーカーではない
   
K8    ほぼ CAM5.2 と同じ(K7との反応性低い)ほとんどの上皮で陽性
             未分化癌や低分化腺癌の同定に用いる 重層扁平上皮の染色性は低い
                (扁平上皮癌ではほぼ陰性,基底細胞癌では陽性のようだが,K8単独抗体がない..)
          
・K13 正常の口腔粘膜は陽性,癌化すると陰性化することがある

・K17 正常の口腔粘膜は陰性,癌化すると陽性化することがある
   (K7より口腔扁平上皮癌のマーカーとして感度高いらしい)

・K18 京大が保有している抗体はCAM5.2 (≒ K8) より染色が不安定なことがあった。

K19 ケラチンとしては最小の分子量 (40kDa)。大抵の腺癌で陽性となる。
    CYFRA 21-1 (fragments of CK19), OSNA (CK19 mRNA), circulating tumor cells (mRNA)など,
    腺癌の検出
で広く用いられている.ペアがいないケラチン.
    非角化重層扁平上皮,扁平上皮癌や胸腺腫でもほとんど陽性となる.脊索腫でも陽性。
    角化重層扁平上皮・正常肝細胞・腺房細胞(の一部)・膵ラ氏島・内毛根鞘・エクリン腺外層は陰性 
    肝細胞癌は通常陰性。もし発現していると予後不良。肺癌,膵癌でも予後不良マーカーとされる。
    乳頭状甲状腺癌で明瞭に陽性。良性の甲状腺上皮で発現が弱い傾向がある。
    正常中皮では発現に乏しい。反応性中皮の一部や中皮腫の大半が陽性となるらしい。
               
K20 比較的最近 (1990) 同定された上皮ケラチン.
    腺癌では腸型で陽性となり,K7との組み合わせでおおまかな原発巣の推定に用いられる(後述)
    K19と異なり,重層扁平上皮や扁平上皮癌に発現しない
   
AE1/AE3 
            AE1が Type I (K10, 14〜16, 19) = 重層扁平上皮系に対応
            AE3 が Type II (K1〜K8) = 腺系に対応
         ほとんどの上皮ケラチンがAE1/AE3で染まるはずだが,CAM5.2や34βE12のみで染色される腫瘍もあるので万能ではない

・34βE12 重層扁平上皮のケラチン (K1/5/10/14/19)に反応する 
            重層扁平上皮のケラチンを広くカバーするが,K19を含むため扁平上皮癌特異的マーカーではないことに注意(その目的ではp40が有用)

K7とK20を用いた(腺)癌の原発巣推測
(腺)癌
原発巣推定
Keratin 7-
Keratin 7+
Keratin 20-
前立腺癌
淡明細胞型腎癌
肝細胞癌
副腎皮質癌
乳癌
肺癌
非粘液性の婦人科癌
Keratin 20+
大腸癌
メルケル細胞癌
粘液性卵巣癌
膵癌・胆道癌の一部
尿路上皮癌
K20はうんこ(大腸),おしっこ(尿路)で陽性.
転写因子の免疫染色で原発巣をさらに絞り込める場合がある


参考:ケラチン以外で,原発巣の推定に有用なマーカー例
上咽頭癌:EBER ISH+ p40+
中咽頭癌:p16 (HPV関連,非角化型が多い)
唾液腺癌:GATA-3
甲状腺癌:thyroglobulin, PAX8, TTF-1
胸腺癌:CD5+ p40+
肺癌:TTF-1 (ベンダー注意), Napsin A
乳癌:GATA-3, ER, GCDFP-15, mammaglobin
副腎皮質:Steroidgenic factor 1 (SF-1), calretinin, inhibin
肝細胞癌:arginase 1, Hep Par 1(=カルバミルリン酸合成酵素)
膵癌:TCTE3(?)
腎癌:PAX8, CD10
大腸癌:CDX2, SATB2, villin
 大腸癌のマーカーと してはCK20よりもCDX2の方が感度が高く,SATB2の方が特異度が高い。Villin はEpCAMと共に「腺癌」に特異的なマーカー。Villinは正常細胞では刷子縁マーカーだが,本来刷子縁を持たない上皮由来の腺癌(胃,肺など - この場合細胞膜側でなく細胞 質に広く陽性)でも陽性となりうるので大腸癌マーカーとしての特異性は低い.
婦人科癌:PAX8, ER, (WT-1)
尿路上皮癌:GATA-3
前立腺癌:PSA, ERG (一部)
セミノーマ(性腺・縦隔):OCT4 (3/4)
メルケル細胞癌(皮膚):MCP