Ki-67
2021年06月18日開始
【読み方】
Ki は Kiel に由来するので本来の発音は「キー」と思う.英語圏では [keɪ aɪ ˈsɪksti ˈsɛvən] のように読む人が多いらしい.
https://youglish.com/pronounce/Ki-67/english?
マウスモノクローナル Ki-67 抗体はクリスティアン・アルブレヒト大学キール (Christian-Albrechts-Universität zu Kiel) の Harald Stein らがホジキンリンパ腫細胞株の核抗原に反応する抗体として見いだした.発表当初よりリンパ腫マーカーではなく増殖マーカーとして報告された (Gerdes J. 1983).
【MIB-1登場】
最初の発表から数年後,Gerdes らは FFPE 標本でも免疫染色使用可能な マウスモノクローナル抗体 MIB-1 を発表した (Cattoretti G. 1992).京大病理部が岩佐先生の学位論文のために Ki-67 の免疫染色を行った当時は 日常診療に用いる抗体ではなかった (Iwasa Y. 1998) .
【京大病院でのルーチン利用】
1998年以前のKi-67の診断利用については電子的記録がない."Ki-67 labeling index" の表現を最初に用いたのは2002年.診療科からの依頼で特定の腫瘍につきルーチンにKi-67免疫染色を実施するようになったのは,髄膜腫では2001 年5月頃からで,乳癌では2008年8月頃からである.リンパ腫やGISTでは2001年頃から使用されているが診療科からの依頼で行う形になっていない ためかときどき染色が実施されていない.
Ki-67が髄膜腫診断にルーチンで用いられる2001年は京大病院でのオーダリングシステム導入時期 (2000年11月6日, KING3 とファイルメーカーProの接続)に近いため,2001年以降についてはデータが揃っている:
2001年
2020年
全組織診断
10,641
12,613
Ki-67 (Ki67)を含む診断
203 (1.9%)
1,299 (10.3%)
【機能・分布】
Ki-67 は MKI67 遺伝子 (10q26.2) にコードされている核タンパク質である.Ki-67は染色体表面をコーティングしてプラス(+)の電荷を与えることで細胞分裂時に染色体同士がくっ つかないようにする (Cuylen S. 2016).Ki-67は核小体にも分布しリボゾームRNA合成に関与するとされる (Bullwinkel J. 2006).
Ki-67の核内分布は分裂周期を反映する.半減期は約1時間である (Bruno S. 1992).細胞周期のうち G0期ではほぼ発現しておらず,間期 (G1期, S期, G2期) が進むにつれ核内でのタンパク質量が増加し,有糸分裂の時期 (M期) でピークに達し,その後急速に減少する.
【利用】
Ki-67 発見当初よりKi-67陽性腫瘍細胞の割合 (Ki-67 labeling index)が悪性度の指標となることが示唆されており,1980年代に凍結切片を用いて脳腫瘍 (Burger PC. 1986), 乳癌 (Lelle RJ. 1987), リンパ腫 (Weiss LM. 1987)で腫瘍細胞の増殖能・悪性度の指標になることが示唆された.
2011年のザンクトガレン・コンセンサス国際乳がん会議では14%未満/以上を luminal サブタイプの判別点にした(Goldhirsch A. 2011).その後に20%カットオフを支持する論文が出た (Lombardi A. 2021).
【数え方例】
ホットスポット(陽性細胞が多いところ)を対物20倍で写真撮影し,その画像で腫瘍細胞500個(以上)をマークしてカウントする,などのように後で検証できることが望ましいように思われる.
Labeling index の報告
・10%以上で形態が明らかに悪性を示唆するなら10%刻みで十分と思われる.
・10%未満は低悪性度腫瘍を意識して1%刻みに.
・下垂体腺腫や甲状腺結節では3%が分岐点の報告あり (Petry C. 2019; Kakudo K. 2021).
・NET G1/G2だと2% (WHO 2010)〜3% (WHO 2017)
・肺カルチノイドでは0.5%が分岐点の報告あり (Joseph MG. 2015).
【敗北した類似マーカー】
Ki-67以前の増殖能の指標として PCNAがあったがその後必ずしも分裂能を反映していないと報告されるようになった(Coltrera MD. 1991; van Dierendonck JH. 1991).リン酸化ヒストンH3 phosphorylated histone H3 (PHH3) はM期のマーカーとして登場したがあまり普及しなかった (Ladstein RG. 2010; Li JY. 2012).
リンパ節の Ki-67 染色