京大病院では技師がFCMを解釈してくれている...が他施設では一般的でない.通常,FCMの分析結果は,ドットプロット dot plot やヒストグラム histogram で表示され,それを病理医が解釈する.
FCMとH&E染色と免疫染色があれば,悪性リンパ腫のほとんどは診断可能
H&Eが「よく読める」ようになるためにも,常に「FCM」のデータを参照する
FCMで解析する目的:
正常細胞が混在している試料の中から,
CD (Cluster of Differentiation) の発現パターンにより,
異常細胞群 (abnormal cell population, ACP)の表面形質を知ることである
dot plot では,文字通り,ACPが群れを成している...
FCM情報の正しい解釈がなければ,ムダに免疫染色をオーダーして医療資源を浪費するの
みでなく,間違った診断をしてしまうかも知れない
悪性リンパ腫の病理診断では,通常,FCMの結果を確認してから, IHC のセット(パネル)を決定する.
組織形態からみてFCMの結果が妥当と判断される場合 (concordance case) ,
免疫染色(IHC)でもう一度,FCM解析済みの抗原を確認する必要はほとんどない.
FCMは,主として細胞表面抗原を解析対象とする.
IHCでは,主として細胞質内や核内の抗原を解析対象とする.
FCMの結果とHE染色をふまえたIHCのパネル例
FCM
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HE
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IHC ⇒ DLBCL の鑑別・亜分類に注力
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CD5- CD10-
CD20+
Sm-IgG+
Sm-kappa+
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大型リンパ球
(中心芽球様)
びまん性増殖
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PAX5(核) bcl-2(細胞質)
bcl-6(核) MUM1(核)
c-myc(核) Ki-67(核)
EBER-ISH(核)
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パネル例
FCMで検討済みの抗原はIHCで省略可能!?(
Mason EF. Int J Lab Hematol. 2017)
FCMの結果
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小〜中細胞
の場合
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大細胞の場合
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注意
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CD5陽性のBリンパ腫疑
(MCL/CLL vs. DLBCL)
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Cylin D1
Ki-67
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BSAP, BCL2, BCL6,
MUM1, MYC, EBER
Ki-67
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BSAP (PAX5) は時に染色不良になる可能性
MYC, EBER は optional かも
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CD10陽性のBリンパ腫
(FL vs BL vs DLBCL)
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BCL2 BCL6
CD21
Ki-67
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BSAP, BCL2, BCL6,
MUM1, MYC, EBER
Ki-67 |
BLではCD3が有用かも(ほとんど腫瘍間にTリンパ球がない)
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CD5陰性,CD10陰性の
Bリンパ腫 (MZL vs DLBCL)
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IRTA1
AE1/AE3
(CD3 CD20)
(κ/λ) (TdT)
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BSAP, BCL2, BCL6,
MUM1, MYC, EBER
Ki-67 (IMP3)
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marginal zone 疑いではIRTA1を推奨
腫瘍量が少ないDLBCLでは IMP3が有用かも
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? Hodgkinリンパ腫
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(IMP3)
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CD15 CD20
CD30 PAX5 EBER
(CD3) (fascin)
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PAX5は「かなり薄い」ことがポイント
小型腫瘍でもIMP3陽性となる
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T細胞性
AITL vs ATL vs NOS
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foxp3 (ATL)
CD10
CD21
CXCL13
PD1 (AITL)
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ALK
(CD3) CD30
EBER
granzyme B
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T細胞性腫瘍の「核」を高率に染める抗体がない
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NK細胞性
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CD3 CD56
EBER
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【用語】
FCMでは,
2種類の散乱光 (FSC, SSC)と,
蛍光(各々の標識抗体からでる)を個々の細胞について測定する.
その分布をグラフにして表している.
前方散乱光 forward scatter (FSC) = 細胞の表面積(大きさ)に比例
側方散乱光 side scatter (SSC) = 細胞内構造の複雑さ(≒顆粒,細胞内小器官の量)に比例
FSC, SSCの違いで,リンパ球,単球,顆粒球がおよそ分けられる
リンパ腫の多くはFSC大(= 大きな細胞)
FSC小の細胞が ACP を含む ⇒ 低悪性度リンパ腫の可能性
蛍光 = 細胞表面の抗原量に比例
通常,数十種類の抗体を反応させる
dot plot では,1個の点が,1個の細胞に対応する
【正常細胞マーカー】
まず,正常の細胞について暗記する
特にことわらない限り,細胞表面 (Sm, あるいはsで表現)は省略.細胞質抗原は cyで表記.
T細胞: (CD1)
CD2 CD3 CD4 CD5 CD7 CD8 TCR
CD1aはランゲルハンス細胞でも陽性,
CD4は単球・組織球でも陽性,
CD5は一部のB細胞で陽性
CD8は脾臓血管内皮で陽性
B細胞:
CD19, CD20, CD22, CD23, cyCD79a, Sm-IgA, Sm-IgG, Sm-IgM, Sm-IgD, Sm-kappa, Sm-lambda
リンパ芽球・中心芽球 CD10+
形質細胞 CD20- CD38++ cyIgA, cyIgG, cyIgM, cyIgD, cykappa, cylambda
NK細胞:CD2dim CD7 CD8 CD16 CD56 CD57 (CD3- TCR-)
単球/マクロファージ:CD4dim CD13,
CD14, CD33, CD64, CD68, CD80 (M1), CD163 (M2),
顆粒球 cyMPO; CD11c CD13 (CD15) CD33 CD65(顆粒球) CD117(マスト細胞) CD123 (pDCs)
未熟な骨髄球性細胞 CD34 CD117
赤芽球 (CD71, 赤芽球) CD235a(赤血球も)
巨核球 CD41 CD42b CD61
【異常細胞群 (ACP) =腫瘍,の判定】
1) kappa: lambda 比の異常
1つのB細胞では1つの軽鎖遺伝子の再構成しかない.κとλを同時に発現することはない
(2番染色体上のκ遺伝子の再構成に失敗すると22番染色体上のλ遺伝子が再構成される)
κ : λの組織中で正常な比率は
約 2:1.
ただし,血液中の遊離軽鎖アッセイの場合 κ/λ の正常値は0.26〜1.65(Katzmann JA, et al. Clin Chem 2002)
とりあえず,およそ Kappa/Lambda >3,または<0.5 ⇒ B細胞性腫瘍疑い,と考えてみる
(サイコロで奇数の目だけ続けて出たり,偶数の目だけ続けて出るようなもの...)
カットオフの適正値は,厳密に決められない(測定法や反応性細胞の含まれる割合に依存するため)
皮膚B細胞性リンパ腫(ベンタナ ISH)
> 3 or <1 (Magro C, et al. J Cutan Pathol 2003)
骨髄浸潤した濾胞性リンパ腫(ROC解析,FCM)
> 4 or < 0.3 (Iancu D, et al. Arch Pathol Lab Med 2007)
1') B細胞で汎Bマーカー(CD19, CD20, CD22, HLA-DR, Sm-Ig ) が欠失 ⇒腫瘍 (cf. Kaleem Z et al. Am J Clin Pathol 2000),
HLA-DRの消失:CNSリンパ腫など
2) T細胞で汎T細胞抗原の欠失
CD2, CD3, CD5, CD7のいずれかが欠失しているとき,T細胞性腫瘍(疑い).
細胞表面 CD3 (
sCD3, FCMで測定) 陰性,細胞質内 CD3 (
cyCD3, IHCで染色) 陽性も,腫瘍パターン.
CD4/8比ではT細胞性腫瘍を判定できない (e.g. HIV感染).
3) 通常ほとんどない細胞が多数出現
末梢組織に稀な細胞が多数 (e.g. 10%以上) 出現したら腫瘍を考える
CD5+ B細胞 (マントル細胞リンパ腫など)
CD1a+ T細胞(急性白血病)(胸腺型形質,胸腺ではフツー)
CD4+ CD8+ T細胞(CD3 ≒ CD4 + CD8 が成立しない場合)
CD10+ T細胞 (血管免疫芽球型T細胞リンパ腫)
CD25++ T細胞 (成人T細胞白血病)
TCRγδ+ T細胞 (肝脾リンパ腫)
CD30+ 細胞 (未分化大細胞リンパ腫,EBV関連リンパ腫の一部)
CD30+細胞は活性化リンパ球(免疫芽球)の指標
CD56+ 細胞 (NK/T細胞リンパ腫)
cf. 白血病:分類・予後因子は染色体/遺伝子解析の占める割合が大きくリンパ腫ほど重視されない
AML M3:HLA-DR陰性
AML M2:CD19+ and/or CD56+
Ph1+ ALL:CD66c+
cf. リンパ芽球性リンパ腫:TdT+(= 未熟リンパ球)(核抗原)
TdT (
terminal deoxynucleotidyl transferase) = DNAの3'末端に(ランダムに)塩基を付加する酵素
V-J, V-D-J 結合の間に,nontemplated
nucleotidesを数塩基つないで抗体の多様性を生み出す
PCRでクローナリティを判定するときの,PCR産物の分子量の違いにも関与してくる
Merkel cell carcinoma と小細胞癌 が陽性になることがある (Sur M et al. Mod Pathol 2007)
4) aneuploidy の存在
DNAに結合する蛍光色素によりDNA量の解析もできる
aneuploidy があれば,腫瘍
【免疫組織化学】
下記は,一般的にFCMでは判定しないマーカー.IHCで判定する.
ALK: 正常リンパ球では陰性.
bcl-2:正常の胚中心B細胞では陰性.
濾胞性リンパ腫でも,約1割は陰性
bcl-6: 胚細胞中心マーカー.
Hans classifierでは30%をカットオフ値としてMUM1と併用する.
CD21: 濾胞樹状細胞 (FDC) で陽性.
FDCの分布パターンが,濾胞性リンパ腫の診断や血管免疫芽球型T細胞リンパ腫 (AITL) の診断に有用.
CD21が薄いとき,CD23を補助的に使うことがある
Cyclin D1:CD5+リンパ球で陽性 ⇒ マントル細胞リンパ腫
CD56+ あるいは cyclin D1+ の形質細胞⇒ 骨髄腫細胞(cyclin D1+の形質細胞はCD20, PAX5も陽性)
(Van Camp B et al. Blood 1990; Vasef MA et al. Mod Pathol 1997)
EBER ISH:正常の末梢組織で陽性細胞はほとんどない(e.g. <1/20 hpf).
他のEBV抗原であるLMP-1やEBNA2の染色が診断に必要になることは少ない
IMP3:正常リンパ球は陰性(胚中心B細胞を除く)
DLBCLの大半で陽性
Ki-67: リンパ腫疑い検体では,Ki-67の免疫染色が望ましいと思う
1) 濾胞性リンパ腫と反応性濾胞の区別(染色パターンが異なる)
2) マントル細胞リンパ腫の悪性度判定
3) びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とバーキットリンパ腫の区別
4) 小検体 (e.g. 針生検検体)での低悪性度リンパ腫と高悪性度リンパ腫の区別(推定)
暗帯・明帯の区別が明瞭なら,反応性濾胞
Ki-67低値 (e.g.
<30〜40%)は低悪性度リンパ腫を考慮
Ki-67高値 (e.g. ≥40%)は高悪性度リンパ腫を考慮
非常高値
(>95%)は Burkittリンパ腫を考慮
MUM1 (Multiple Myeloma 1 / Interferon Regulatory Factor 4 protein) :
後胚中心のB細胞で核に陽性
非腫瘍性B細胞ではBCL6と排他的に発現
PAX5 (=
BSAP, B-cell lineage specific activator protein):B細胞の核に陽性
陽性腫瘍:ほとんど(>90%)のB細胞リンパ腫で陽性
Merkel cell carcinoma (>70%) と small cell carcinoma, NECの一部にも陽性となる
陰性腫瘍:T細胞性腫瘍,ほとんどの形質細胞腫瘍,上皮性腫瘍
PAX8ポリクローナル抗体はPAX5に対する交差反応があるため,解釈に注意が必要
PD-1: 濾胞性Tリンパ球の細胞膜で強陽性,他のTリンパ球で弱陽性
AITLで陽性になることがある
PD-L1:リンパ腫の一部ではPDリガンドの遺伝子増幅.転座あり.
ホジキンリンパ腫,未分化大細胞リンパ腫,NK/T細胞,EBV関連B細胞リンパ腫などで発現
(Inaguma S et al. Am J Surg Pathol 2016) (Chen BJ et al. Clin Cancer Res 2013)
腫瘍随伴マクロファージは,PD-L1陽性,CD163陽性 (M2-like)が多い
(Heeren AM et al. Mod Pathol 2016)
PU.1
PU.1は11番染色体上にある
SPI1遺伝子にコードされている,
purine-rich DNA sequence (PU-box, 5'-GAGGAA-3')に結合するエンハンサー.
PU.1 強陽性:組織球&組織球系腫瘍 (Muirhead D et al. Am J Dermatopathol 2009).
PU.1 中等度陽性:正常のB細胞(一部の胚中心細胞が強陽性,他は中等度陽性).濾胞性リンパ腫とLPHDも陽性.
PU.1 陰性:T細胞 & 形質細胞(腫瘍含む),TCRBCL, 古典的Hodgkinリンパ腫.DLBCLの約4割
(Torlakovic E et al. Am J Pathol 2001).
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参考論文その他
Boyd SD, Natkunam Y, Allen JR, Warnke RA. Selective immunophenotyping
for diagnosis of B-cell neoplasms: immunohistochemistry and flow
cytometry strategies and results. Appl Immunohistochem Mol Morphol.
2013 Mar;21(2):116-31.